第5回市民フォーラム講演記録 第1部

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 (1)「国連・持続可能な開発のための教育(ESD)の10年」と国連大学RCEについて
 ○講師:国際連合大学高等研究所 佐藤哲志氏

皆さんは、日頃、緑を守るとか、様々な環境活動に取り組んでおられると思いますが、現在、そういった取組みを一歩押し進め、さらに少し違う視点を入れながら取り組もうということが世界の中で進められています。その動きについてご紹介します。

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●持続可能な開発(Sustainable Development:SD)とは?

一言で説明しがたい奥の深い言葉であり、世界的に定まった定義があるわけではありませんが、代表的、典型的な定義を紹介します。

「将来の世代がそのニーズを満たす能力を損なうことなく、現世代のニーズを満たす開発」
資源を使い果たしてしまう、あるいは、回復困難なまでに自然を破壊してしまう、次の世代に自然の恩恵にあずかることができなくなってしまう、これでいいのだろうかということです。これを、「世代間の公平」と言っています。
また、これとあわせ「地域間の公平」、すなわち、特定の国や地域だけが豊かになり、そうでないところに公平な利益の配分がされない、ということでいいのだろうか、ということを考えることがSDの一要素となっています。別な言い方をすれば、「自分だけがよければ」ということではだめという言い方もできるかもしれません。

●持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development:ESD)とは?

SDに「教育」(Education)という言葉がつきました。「SDを達成するための教育」ということになります。1992年に地球環境サミットが開かれ、アジェンダ21の36章に初めて出てきた概念です。
緑を守る、河川浄化、廃棄物リサイクル、省エネなどさまざまな環境問題に取り組んでいただいていて、「環境教育」という呼ばれ方をしています。ESDには、もちろん環境教育ということも含まれます。仙台ではこの環境教育あるいは環境学習が既に熱心に行われています。そういう意味では、すでにESDの世界に入ってきていただいているわけです。
では、いったい何が違うのかということになりますが、そのことを考える上で、SDとは何だろうということを思い出す必要があります。環境教育は非常に重要で、その実践は不可欠です。ただ、視点を変えてみると、例えば戦争が起こり、ありとあらゆるものが破壊されると、次世代に引き継ぐということなどできなくなります。そうすると、平和や安全の確保を考えることが必要になります。あるいは、排水の設備がなく、非常に非衛生な状態で、伝染病などにいつも脅かされている状態。途上国ではそういうところがまだまだ多いと思われますが、そういう状態ではSDが成り立たないということになります。さらに、貧困の状態でSDを考えろと言っても無理があります。勉強しようといっても学校にも行けない。こういうことに対する対策も取っていかなければなりません。また、人の権利の尊重もないがしろにできないし、男女間の公平も考えていかなくてはならない。また、無用な争いを起こさないためにはお互いの尊重が必要なので、異なる文化や習慣をお互いに理解することが重要になってきます。このように、平和、健康、貧困撲滅、人権、男女間の公平、異文化理解など、併せて解決していかないと持続可能な社会の実現ができないというわけです。
現在の日本の状況を考えると、何となくピンと来ないということもあると思いますが、他の国と関係なく、日本の社会が単独で成立するということはありません。
地域間の公平といったことと関連して申し上げると、日本と同じような生活を世界中の人がするとしたら、地球があと3つ必要だという試算もあるそうです。私たちがエアコンやマイカーなどで資源を使ってしまったから、あなたはもう使わないでねと言うのではなく、これから発展してくる国にも一定の水準を確保する権利があるということです。
こういった世界の状況・動向を頭に入れながら、私たちのくらしを見直していかなければなりません。

ESDの4つのゴール
* 質の高い基礎教育へのアクセスの改善
* 持続可能な開発を取り込むような既存の教育の再編成
* SDに関する公衆の理解と意識の向上
* 民間企業や市民社会の全ての部門における訓練プログラムの提供

●国連 持続可能な開発のための教育の10年(United Nations Decade of Education for Sustainable Development:UNDESD、DESD)とは?

今度は、「10年」(Decade)というものがくっつきました。これは、ESDを世界中に広げ、実践していただこうという、国連のキャンペーンのようなものです。発端は、2002年に開催されたヨハネスブルグ・サミットにおける日本政府及びNGOの提言を受けて、同年の国連総会で決議されたものです。いわば日本が「言い出しっぺ」です。2005年1月~2014年12月までの10年間を“国連 持続可能な開発のための教育の10年”と定め、“持続可能な開発のための教育”を世界中に広め、実践して行こうというものです。
ユネスコがその活動の中心的推進役となっています。ユネスコの執行委員会というところで、9月に国際実施計画が決議されましたが、これは各国に対するガイドライン的なものです。各国が年内に国内実施計画というものを作り具体的な取組みをしていこうということになっていますが、もう既に動き出している活動もあります。それがRCEです。

●持続可能な開発のための教育に関する地域の拠点(Regional Centres of Expertise on Education for Sustainable Development:RCE)とは?

RCEは国連大学が提唱しているものです。センターといっても建物を作ろうというものではなく、“持続可能な開発のための教育”に関わりのある組織、団体等のネットワークを作り、連携・協力して、その地域において“持続可能な開発のための教育”を実践していこう、その拠点を作ろうというものです。
「教育」であるから、まず第一に学校の役割が重要になります。学校では既にESDに関わることを教えていますが、それぞれが単発で取り扱われていることも多く、それぞれで完結してしまっているということも多いようです。
例えば水辺環境を題材に、小学校では水の汚れを目で見て、どんな生物がいるかを調べるような体験的なことを中心に学び、中学・高校では水質分析による科学的実証を行うなど、ひとつの材料を使いながら子どもの成長に合わせ学んでもらうという連携ができれば、一味違った、より充実し、効果的な学習、経験になるのではないかと思います。そういうことから教育のカリキュラムの見直し、再編というものも、アウトプットとして期待されているところです。
以上が「縦の連携」(=垂直的リンク)です。その他に小学校同士、中学校同士として連携を進めてほしい(水平的リンク)。さらに、先生だけの力で全てを行うのは困難であるため、地域の博物館・水族館などの学芸員の力や、地域の市民団体、大学の先生の役割が重要になってきます。こういった専門家のサポート体制が取れれば、より進めやすくなります(側面的リンク)。
そしてこういった課題は、学校教育で一時期に学べば身につくというのではありません。そういう意味では、生涯学習とも通ずるものがあるかもしれません。
このように、RCEには実に多様な主体の関わりが期待されています。小学校・中学校・高校・大学、地方公共団体・教育委員会、国の機関、博物館・動物園・水族館・植物園、地域の研究機関、NGO・市民団体、企業、メディア(報道機関)などが挙げられます。特にこうした取組みの普及・啓発のためにはマスコミの力は大きいため、ぜひRCEに入っていただきたいと思います。

地域の拠点のイメージ20051001-2

本年6月の名古屋の国際会議で、RCEの第一群として次の7地域が認定されています。

  1. 仙台広域圏地域(日本)
  2. 岡山地域(日本)
  3. バルセロナ地域(スペイン)
  4. ペナン地域(マレイシア)
  5. 太平洋諸島地域(フィジー)
  6. ライン・ミューズ地域(オランダ、ベルギー、ドイツ)
  7. トロント地域(カナダ)

仙台広域圏では宮城教育大学に事務局をおいて運営委員会が立ち上がっており、今後県内外と連携をし、RCEのネットワークを広げて欲しいと思います。

DESD、RCEはひとつのチャレンジです。広く多様な概念にどのように取り組んでいくかはまだ手探りの状態で、いろいろな具体的な取組みを進めながら見つけていこうというところです。こうすればいいという画一的な答えがあるものではありません。地域の歴史や風土、特色に根ざした地域ごとの取組みが考えられ、アプローチも様々です。例えば、観光と自然保護、少子高齢化など地域の現状や関心事からスタートし、次第に輪を広げて行くことが現実的と思われます。
RCEのR、すなわちRegionalは地域のことです。オール・ジャパンで取り組めないことでも地域ならできるということがあります。
仙台は幸いに素晴らしい活動実績と、広瀬川、木々の緑など求心力となる題材があります。また、ちょっと遊び心を持ちながらこの世界に入ってきていただくのもよいのかもしれません。
今後、世界のRCEを増やし、ネットワークをつくりたいと考えていますので、仙台広域圏RCEを育て、その名を世界にとどろかせていただきたいと思います。

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(2)仙台広域圏RCEについて
 ○講師:FEEL Sendai委員長・宮城教育大学教授 小金澤孝昭

ESD、RCEと何かと横文字がついてまわりますが、これは地球規模で行われている、日本語だけで通用するものではないからです。英語の略称だととっつきにくくなってしまいますが、実際行っていることは、「次の世代にいい環境をどうつないでいくか」という、非常にわかりやすいことなのです。自分達のやっている身近なことなのだということがおわかりいただけると思います。20051001-4

6月に仙台広域圏という地域がRCEに認定され、国連大学のヒンケル学長から認定証をいただきましたが、まだそれもあまり知られていない状況です。
RCEとは何をするところなのかというと、仙台・気仙沼・田尻、宮城県、東北と教育活動の環を広げていくことを目標にしています。今回の認定は、仙台市の環境教育・学習活動、そして、循環型社会を目指したごみ問題などへの取組みなどが、先進的な事例になりうると評価されたものです。気仙沼は、地域の水産業、企業、博物館などと協力しながら、小中高校で連携して教育に取り組んでいるということ、また田尻では「ふゆみずたんぼ」という環境保全型農業を提唱して、蕪栗沼を中心に取り組んでいます。ラムサールに登録される予定で、ウガンダの会議にNPOなど10人くらい行くと言っていました。この3つが核となってスタートしましたが、もっといろいろな方に参加していただき広げて行きたいと考えています。

ESDは環境教育だけに取り組むのではありませんが、環境から入ると、自然環境だけでなく、くらし、地域のとの関わりとの問題に広がり易いという特徴を持っています。子ども達との遊び場づくり、まちづくり、さらには食の教育まで広がってきます。環境教育からもっと広げていくことが大切です。
本来「教育」という言葉には「教え、学び」という考えが入っていますが、日本で教育というと押し付けられるというイメージが強くなります。そこで、教育・学習、学校教育と、市民が日常生活で学ぶ学習活動を重ね合わせようというのがねらいで、それを結び合わせるためにRCEでは大学が核となっているということです。
宮城教育大学が中心となり、運営委員会が設置され、自治体、国、マスコミ、FEEL Sendaiなどが入っていますが、今後企業などにも入っていただきたいと考えています。
まずはそれぞれの地域がそれぞれの取組みを発展させていくということですが、ここ仙台ではFEEL Sendaiが中心になって進めていきます。今日の市民フォーラムに続き、明日も、市民レベルでアピールしていこうということで「環境フォーラムせんだい」が開催されます。FEEL Sendaiはパートナーシップにより環境教育・学習を発展させようということで設立されましたが、「杜々かんきょうレスキュー隊」「環境社会実験」などの取組みがもっと大きくなっていくことが大事です。大学としても、県内の小中高校と連携して取り組んでおり、この11月にユネスコ「持続可能な未来に向けた環境教育」とりわけ「教師のための環境教育実践プログラム」ということで先生達を対象としたセミナーを開催します。気仙沼・田尻の現在の取り組みも、どう広げていくかということが期待されています。気仙沼・面瀬では、テキサスの小中高校と連携した授業を行うという実践、田尻では、環境保全型農業や環境教育を進めていますが、今後3つの地域だけでバラバラに、また運営委員会だけでやっていくのではなく、岡山の指定事業などのように活動や組織の登録を増やすなどのアイディアを取り込んでいきたいと考えています。そのほか、お互いの活動紹介をしたり、マスコミも取り込んで情報発信するなど、広域圏を統一する取組み、スローガンを考え、ほかの地域・関係者にも広げていきたいと思います。
ESDは基本的に次世代に引き継げるような持続可能なライフスタイルを作ることであり、たとえば伊達政宗も木を植えることを推奨しましたが、木とくらす暮らし方として「いぐね」(屋敷林)がある。こういうものもスローガンになるのではないかと考えています。
研修などを通して人材育成をはかる東北グローバルセミナーの取組みもまさにその実例になると思います。研修で行ったインドの事例が参考になります。日本は完全に社会が出来上がっているため、社会がどのように作られていくかということがわからなくなっています。しかし、インドはちょうど日本の3~40年前の暮らしで、貧困の中であえいでいる人もいますので、どうやって人々が活性化し社会が作られていくのかということがよく見えます。いわば、地域づくりの原点が見えるわけです。NGOが地域の組織づくりに取り組み、組織活動の大切さを住民に教えたり、技術の指導などの支援をしているという例です。このように、地域づくりとは、人づくり。人と人をつないでいくということに他なりません。

 

 

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